座面の裏側を知ると椅子がもっと面白くなる ― 座面構造の変遷
こんにちは。高山です。
中秋の名月がそろそろだということをすっかり忘れるほど、蒸し暑さが続いていますね。
月を思ったりというのは日本人独特の表現としてありますが、
月がタイトルに含まれたアルバムや名曲は世界中に多々あり、ピンク・フロイドのThe Dark Side of the Moonや、ORIGINAL LOVEの月の裏で会いましょうはその最たるものの一つ。
今日はそんな裏にスポットを当てて進めたいと思います。
椅子の裏側を見る機会はなかなかありませんよね?
裏を返して見てみると、時代背景やどの時代のものを模しているのかがわかってきます。
以前より断片的に書かせていただいております椅子の構造(椅子の修理・リペア グラつき直しについて / 椅子の部分張替え ビニールレザーの破れ方と、その特徴)について、
今日は写真を使って書いていきたいと思います。
生地の張替えという観点から椅子の種類を大きく分けるとすれば、3種類に大別できます。
①張り込み
②落とし込み
③座板ビス止め
①張り込み式
17-18世紀のヨーロッパ家具から見られる構造タイプ。
当時は、木枠にキャンバスや麻ベルトを施し、その上に馬毛や藁を敷き詰めて、布やレザーで覆ったとされる、古典的な型となります
現在では素材こそ違うものの、ウェービングベルトの上にウレタンを敷き、その上に生地を張り込むという点では同様の構造です。
生地の張り方は、丸張りといった呼ばれ方をすることがあります。
生地を木枠に張り込むので、部分交換が容易ではなく、グラつきを補修する際は要相談のタイプの椅子となります。
グラつきを補修するタイミングは、生地交換の際がベストとなります。

【松本民芸家具】
本体に対して直接編み込んでいくスタイルです。
Yチェアなどのペーパーコードなどと張り方は同様となります。
座面を切らないとグラ直しができない端的な例になります。
ちなみに、切ったあとはこのようになります。
⇩


【イタリア製ダイニングチェア】
こちらの椅子は、ウェービングベルトの上にウレタンを敷き、生地を張っています。
下のMollerと比較してみると、生地の張り方違うのがわかりますね。
こちらは座枠が見える形で張ってあり、Mollerの方は下まで包んでいますね。
それぞれ特徴があり、ルックスに差を生んでいます。

【J.L.Moller 78 ダイニングチェアのリペア -チーク材の特徴と、椅子を扱うちょっとした工夫】

右の写真がウェービングベルト(張り直し前)の写真になります。
その上にウレタンを乗せて、生地を上から張っているのがわかります。
②落とし込み式
19世紀後半から普及したと言われる、着脱可能な座面枠。
産業化と共に椅子の形が変遷していくのがわかります。
量産、輸送、メンテナンスというのが考慮されるようになってきます。
座面と木枠が分離するため、グラつき直しのみの対応が可能となります。

左側は座板タイプ+ウレタン、右側はウェービングベルト+ウレタンとなります。
共に、裏側からビス止めをせず、枠に座を落とし込んでいます。
その分、隙間なくピッタリハメる必要があるので、
座面のみではなく、本体と共にお預かりして生地の張替えをします。
③座板+ビス止め式
合板やベニア板にウレタン、+生地を張り、ビスで固定するタイプ。
②を発展させた形といえますね。

【メーカ不詳】
ご使用されてから4、50年近く経た椅子の張替えでお預かりしました。
このような裏側となります。非常にモダンな作りです。
木の家具の良さは、手直ししながら育てていけることだと、改めて気付かされる貴重な機会でした。

【NOBLE】
35年使用されたダイニングチェアです。
裏面の両サイドにビス止めするための座枠がありますね。
横にマチがないタイプの張り方なので、ベニアに丸張りとなります。

このNOBLEマーク。
一見すると飛騨産業のキツツキマークに見えなくもないのですが、調べてもわからないんです。
OEMで作られたものなんですかね。
座板の裏側を見ると、四隅の処理具合が、職人泣かせでありますが、綺麗な仕上げですね。

【シラカワ】
上のNOBLEとは、またビス止めの位置が違います。
それによってデザインが変わってくるわけです。
以上です。
今回は非常に盛りだくさんの内容になりました。
いつもと別の視点でご自身の椅子を眺めて見てみるいい機会になればと思っております。
写真を撮っていても、この椅子は右から写した方が不思議と決まるな等々、新たな発見があるものです。
【関連記事】木製椅子のグラつきのリペア | 原因を知れば修理の判断ができます
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